体外受精には卵巣刺激、採卵、媒精、培養、凍結、胚移植などの段階があります。
以下当院の体外受精における卵巣刺激、採卵、媒精、胚移植に関する特徴、考え方を記載しました。

卵巣刺激

卵巣刺激とは排卵誘発剤で卵巣を刺激して卵子を育てる段階です。排卵誘発剤の使用量や方法により高刺激法(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法)と低刺激法(クロミフェン刺激、レトロゾール刺激)、排卵誘発剤を全く使用しない自然周期法などに分類されます。それぞれに長所短所があります。

高刺激法
高刺激法は卵巣の状態が良い方(AMHの数値が保たれている方)では一度に多くの卵子を回収することができますので、少ない採卵回数で効率よく治療を行うことができます。反面、大量の排卵誘発剤を使用することによる体への負担、排卵誘発剤の副作用(卵巣過剰刺激症候群など)、多数の卵胞を刺すことによるリスク(出血、腹痛、感染など)、また1採卵あたりの費用は高くなる傾向にはあります。
しかし、採卵を繰り返すことはかえって費用負担の増加になりますし、トータルの治療期間が長くなり、身体的、精神的な負担が増える要因にもなりますので、当院では卵巣機能が比較的保たれており1回の採卵でしっかり卵子が取れると見込める方には高刺激法による採卵を第1選択として勧めています。もちろん、卵巣過剰刺激症候群や採卵に伴うリスクに細心の注意を払いながら安心・安全の医療を行うことを第1に進めて参りますのでどうぞご安心下さい。
低刺激法
飲み薬を中心とした排卵誘発剤で卵巣をマイルドに刺激し、卵巣にかかる負担をなるべく軽くしながらかつ複数個の卵子回収を目指す方法です。回収できる卵子の個数は2~3程度の場合が多いですが、人によっては1個しか取れない方もおられます。当院ではAMHが比較的良く卵巣機能が十分に保たれていると判断されるケースではなるべく少ない採卵回数で治療成績を上げるために高刺激法であるロング法やアンタゴニスト法を勧めていますが、逆に卵巣機能が悪く高刺激法でも回収卵子数の増加が見込めない方や、これまでに高刺激法で結果が出ていない方にはセカンドラインの方法として低刺激法による採卵も行っています。
自然周期法
自然周期法では、高刺激法に見られるような副作用の可能性は低くなります。しかし、回収卵子数が少ないため1回の採卵あたりの治療効率が悪いという欠点があります。当院では自然周期法は治療効率不良の観点から積極的には勧めていませんが、これまでに刺激法でなかなか結果の出なかった患者様や月経周期が順調な方で希望される方には一つの選択枝として実施することも可能です。

当院の体外受精における卵巣刺激に対する考え方は、患者様の状況ごとにオーダーメイド化することをモットーにしています。治療を行う患者様がなるべく早く妊娠という結果に結びつくような治療を心がけています。

採卵

当院の採卵は麻酔を行う場合と無麻酔で行う場合の2種類があります。患者様の希望を考慮してどちらの方法も選択できます。(ただし、高刺激法で卵胞数の多い方についてはより安全に採卵を行う観点から麻酔を行うことを勧めます。採卵時に体が動くことでかえって危険になる場合があるからです)

無麻酔採卵の方では21G針という極細の採卵針を用いています。針が細いために痛みが少なく、この太さですと麻酔なしでの採卵が可能です。痛みの強さとしては採血と同じぐらいとお考え下さい。もちろん痛みの感じ方には個人差があるため、それでも痛いと感じる方はおられるかもしれません。痛みが心配な方には事前に鎮痛剤の使用も可能です。

自然周期や低刺激法では穿刺する卵胞数が1個~4個程度であることが多く処置時間が短く採卵時間はおよそ5分以内です。自然周期や低刺激法では麻酔をしないで採卵を行うことが可能なため採卵終了後はそのまますぐに帰宅が可能です(状況によってはしばらくお休みいただく場合もあります。また卵胞数が少なくても希望により麻酔を行うことも可能ですのでどうぞご遠慮なくご希望をお伝え下さい)。麻酔をしない方の場合は多くのみなさまが車で来院され、採卵後にそのまま仕事に行かれたりしています。採卵後の痛みは多くの方では翌日ぐらいまでにはおさまってきますがまれに数日続く方もおられます。採卵後数日間は激しい運動などは控え、あまり無理をなさらずにお過ごし下さい。

高刺激法で採卵を行う場合は卵胞数にもよりますが20~30分程度かかることも多く、より安全に、身体的負担を少なくする目的で麻酔を行うことを勧めています。麻酔は静脈麻酔で点滴から鎮痛剤を注射します。眠っている間に処置が終わりますので痛みを感じることなく処置の間を楽に過ごすことができます。麻酔を行った場合は覚醒までに少々時間がかかるのと、覚醒後もしばらくは麻酔が体に残りますので、車を運転しての帰宅はご遠慮いただいております。

媒精

媒精とは卵子と精子を出会わせて受精させる段階です。
通常の体外受精(conventional IVF=cIVF)と顕微授精(ICSI)があります。

cIVF(通常の体外受精)

cIVFとは卵子に選別した元気のよい精子を振りかけて受精させる方法です。自然界の競争を勝ち抜いた、より強い精子が卵子と出会うことから自然の妊娠に近い方法と言えます。

顕微授精

一方、顕微授精は1個の卵子に状態のよい1匹の精子を選んて細いガラスピペットを用いて顕微鏡下に微鏡下に精子を卵子に注入して受精させる方法です。精子数が極端に少ない乏精子症の方(一般に精子濃度が15×10^6/ml以下)、精子運動率が極端に低い精子無力症の方(一般に精子運動率が40%以下)、これまでに通常の体外受精(cIVF)で受精しないまたは極端に受精率の低い方、奇形精子症の方(正常形態精子が4%未満)、などでは、通常の体外受精(cIVF)での受精困難が予想されるため、顕微授精の適応と考えられます。

当院の顕微授精の特徴

当院では顕微授精を行う際にピエゾと呼ばれる方法で行っています。従来法のICSI(conventional ICSI)では先端が尖ったピペットで卵子の細胞膜を刺し、吸引圧をかけながら穴を開けるため、細胞膜が脆弱な卵子や加齢卵子では透明帯や細胞質の変形、卵子の変性や受精率低下につながる可能性があるとされていました。ピエゾICSIとは先端が平坦なピペットを圧電素子によって振動させ、微細な振動によって卵子の細胞膜に穴を開ける方法で行います。卵子の細胞膜を破る際に吸引圧をかけないため、従来法のICSI(conventional ICSI)に比べて卵子に対する負担が少なく、受精率の向上やその後の胚盤胞到達率の向上が期待できます。

従来法のICSI
ピエゾICSI

体外受精時の媒精方法に対する考え方

当院では、体外受精時の媒精方法(通常の体外受精にするか、顕微授精にするか)について、採卵当日の精液の状態を確認しその時々の精液所見より最適と思われる方法を選択しています。なので、普段精子の状態がさほど悪くない方でも、採卵当日の精子の状態が不良であれば顕微授精を勧める場合もあります。逆に普段の精子の状態があまり良くない方でも採卵時の精子の状態がたまたま良く、通常の体外受精が可能となる場合もあります。

顕微授精から着床直前の胚盤胞という状態までの卵の発育段階

ICSI
顕微授精実施時の様子
採卵によって得られた卵子にこれから顕微授精を行うところです。卵子が透明帯(卵子の周りを包む糖タンパク質の帯状の膜)に覆われており、卵子の12時方向に第1極体(粒状の構造)が見られます。第1極体が出現したことを確認して成熟卵子(MⅡ卵子)と判断し、精子の注入に進みます。
2前核胚
D1顕微授精翌日の様子
顕微授精後1日経ち、受精が成立し受精卵となった卵子の様子です。細胞の中心に2個の前核が並んでいるのが確認できます。2個の前核が確認できたかどうかをもって正常受精かどうかを判定しています。
4細胞期胚
顕微授精後2日目の様子
顕微授精後2日経ち、受精卵が細胞分裂により4分割胚になった様子です。割球の均一性、大きさ、出現のタイミング、フラグメント(割球の周りにある小さなつぶつぶ)の程度等により初期胚のグレード分類(Veeck分類)を行います。
8細胞期胚
顕微授精後3日目の様子
顕微授精後3日経ち、受精卵が8分割程度に進んだ状態です。
拡張期胚盤胞
顕微授精後5日目の様子
顕微授精後5日経ち、受精卵が胚盤胞まで進んだ状態です。胚盤胞は内細胞塊と呼ばれる将来赤ちゃんになる内側の部分と栄養外胚葉と呼ばれる将来胎盤になるリング状の外側の部分からなり、内細胞塊と栄養外胚葉の形態および胚盤胞の発育の状態からグレード分類(Gardner分類)が行なわれます。

培養

エンブリオスコープ

当院ではタイムラプスとよばれる培養法を行っており、そのための専用のインキュベーター(EmbryoScope™)を導入しています。タイムラプス培養では受精卵の発育過程を連続的に動画として記録することで、妊娠の可能性のより高い良好胚を選択することが可能となります。また、EmbryoScope™は内部に顕微鏡とカメラを備えているため、受精卵の発育の様子をインキュベーターの外に出さなくても付属のモニターで観察することが出来ます。通常のインキュベーターでは観察のたびに受精卵を外に出す必要があるため、紫外線への曝露、pH変動、温度変化、CO2濃度変化、といった環境ストレスが受精卵にかかる原因となっておりました。EmbryoScope™による培養は卵にやさしい培養であると言え、特に胚盤胞培養のような長期培養を行う際には、非常に有効であると言えます。

胚移植

胚移植は体外受精の成功率を左右する最も重要かつ最終のステージです。どんなに良好胚を用いても最後の胚移植が失敗すると着床しません。
胚移植には大きく新鮮胚移植と凍結胚移植の2つの方法があります。

新鮮胚移植
受精卵を凍結せずに採卵周期と同一周期で移植する方法です。
凍結胚移植
受精卵を一度凍結保存し、採卵と別の周期で移植する方法です。

当院は、日本産科婦人科学会の”生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解”を順守するため、移植胚の個数は原則1個とさせていただいております。ご理解の程よろしくお願いいたします。

当院では以下のような考え方に基づいてホルモン補充周期下の凍結胚移植(胚盤胞移植)をスタンダードプロトコールとしていますが、卵巣刺激の方法や子宮内膜の状態を考慮して新鮮胚移植を選択する場合もあります。

Implantation Window(インプランテーションウィンドウ=着床の窓)という考え方

インプランテーションウィンドウとは”着床の窓”とも言われます。
受精卵が子宮内膜に着床するのには最適な時期があり、排卵後6~7日目ぐらいとされています。
この着床に最適な時期をインプランテーションウィンドウと言います。子宮内膜はエストロゲン、プロゲステロンの作用により受精卵を受け入れやすい状態に調整されます。

自然の状態では、排卵後およそ6~7日目の状態の受精卵がインプランテーションウィンドウ期に当たる子宮内膜(排卵後6~7日)上に存在することで着床が進むとされています。6~7日目の状態の受精卵とは胚盤胞に成長してハッチングしているぐらいの状態に相当します。つまり受精卵の発育と子宮内膜の状態が一致していることが必要となります。着床するためには排卵後6~7日目の状態の受精卵が排卵後6~7日目のインプランテーションウィンドウ期の子宮内膜上に存在することが必要ということです。
子宮内膜と受精卵の日数が一致しない状態では着床がうまく進みません。体外受精で体外培養を行うと受精卵の発育スピードが、母体内にいる時よりも遅くなる場合があります。
受精卵にとっては本来母体内にいる方が成長にとって最もベストな環境であり、体外は受精卵にとっては非常に過酷な環境であるため、成長すること自体が非常に大変なのです。

また、高齢の方の受精卵は若い方の受精卵と比べると明らかに発育が遅いという場合がよくあります。これは受精卵の質の問題によります。採卵後、体外で育てた受精卵の発育が遅れた場合、この受精卵を仮に同一周期(新鮮胚移植)で子宮に戻した場合、子宮内膜の日数とのズレが生じる可能性があります。

つまり、受精卵凍結を行う意味は、体外培養によって生じた受精卵と子宮内膜の日数のズレを凍結を行うことで周期を変えて調整し、最適な子宮内膜の時期(=着床の窓が開いた状態)に最適な状態に発育した受精卵を持っていくということにあります。インプランテーションウィンドウの考え方に基づけば、受精卵発育が遅れる可能性の考えられる高齢者等では凍結胚移植が勧められるということになります。

自然妊娠の仕組みを真似る

妊娠とは本来、自然の排卵(自然の状態では1個の卵胞が育ち1個の卵子が排卵する)で出来た受精卵が、最適な子宮内環境下にあることで成立します。

体外受精周期では、

  1. 大量の排卵誘発剤を使用
  2. 多数の卵胞が発育
  3. エストロゲンプロゲステロンが非生理的なレベルに上昇
  4. 子宮内環境が悪化

という経過となるため、子宮内環境が妊娠に適した本来の生理的な状態からかけ離れて非生理的な状態となり、受精卵にとっては最適とは言えない環境になってしまいます。
特に大量の排卵誘発剤を使用する高刺激周期(ロング法、アンタゴニスト法など)ではこの傾向がより強くなります。
逆に自然周期やエストロゲンの上昇を伴わないレトロゾール周期の場合はより自然の状態に近い子宮内環境が維持されているとも言えます。
クロミフェン周期ではケースバイケースですが、比較的発育卵胞数が多く、エストロゲン値が上昇する場合もあります。(ロング法やアンタゴニスト法ほど多数の卵胞が育つことはないのでエストロゲンの上昇も比較的抑えられることが多い)。

このような状況を考慮して、当院では

  1. 高刺激法(ロング法、アンタゴニスト法)・全胚凍結(全ての受精卵をいったん凍結)
  2. 低刺激法(自然周期、レトロゾール周期)・子宮内膜の状態など条件が許せば新鮮胚移植

というような選択をしています。

クロミフェン周期はケースバイケースですが、、多数の卵胞が育ちエストロゲン値が上昇するようなケースは全胚凍結としています。
また、クロミフェン周期の場合は大抵子宮内膜が薄くなるのでほとんどのケースで凍結を選択する場合が多いです。

高刺激法を全胚凍結とする理由はこれだけでなく、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の予防という目的もあります。インプランテーションウィンドウの考え方に基づいて受精卵の日数と子宮内膜の日数を一致させ、良質な受精卵を良好な子宮内環境下(本来の自然に近い状態)に戻すことが妊娠にとっては一番効果的と考えられます。

自然に近い状態の子宮内環境を再現する方法として、ホルモン補充周期があります。
排卵障害により自然排卵しない方、排卵はするが周期が不順でいつ排卵するか分からない方では凍結した受精卵を戻せない、またはいつ戻すか決められないということがあります。排卵日が決まらないと受精卵の日数と子宮内膜の日数を一致させられないためです。

ホルモン補充周期はエストロゲン、プロゲステロン値を厳密に測定して本来の自然排卵周期に近い子宮内環境を人工的に再現し、着床に最も適した子宮内環境を整え、受精卵の日数と子宮内膜の日数を一致させて戻すのに最も優れた方法と言えます。

以上のような理由から、当院での胚移植はホルモン補充周期下での凍結胚移植を第1選択としています。

経膣超音波下胚移植法

当院では経膣超音波下胚移植法を行っています。
経膣超音波下胚移植は経腹超音波下胚移植に比べて子宮の全体像を正確に把握することができ、胚移植用カテーテルが子宮内膜のどの位置に留置されたかを的確に判断することができます。また、胚移植用のカテーテルも、子宮の屈曲の状態や初産婦、経産婦等、患者様の状態により数種類を使い分ける方法で行っています。

凍結胚および凍結精子の凍結更新手続きについて

凍結胚および凍結精子の凍結保存期間は原則1年とし、これを越える場合は1年ごとに更新手続きが必要となります。更新月を迎えられる患者様には、更新継続手続きの案内を郵送させて頂いております。更新をご希望の方は届きました案内に従ってお手続きの程よろしく御願いいたします。なお、下記に該当する場合は、凍結更新が出来ず破棄となりますためご理解の程よろしくお願いいたします。

凍結胚
  • 夫婦のどちらかが死亡した場合
  • 夫婦が離婚した場合
  • 母体が生殖年齢を越えた場合
凍結精子
  • 当該男性が死亡した場合

更新手続きが患者様より頂けない場合、また住所変更の連絡がなく、郵送不可能の場合も1年を経過したものに関しましては当院の判断により破棄とさせていただきます。ご理解の程よろしくお願いいたします。

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